大重亭
名店の文脈を受け継ぎ、アップデートする設計を。
高岡駅前から伸びる末広大通り。その一本裏手に、かって「大重亭」という有名なステーキ店がありました。
今回はその店名と物件を引き継いで、約30年ぶりに灯りをともすことになった洋食店のリノベーション案件です。
もともとの「大重亭」は、今回の施主の祖父が、1948年に開いたお店でした。「特別な日には大重亭のステーキを食べる」というのがお決まりとなるほど、地元の人に長年愛されてきましたが、祖父の引退と同時に閉店。自社ビルであったため、その後使われないまま年月が過ぎていました。
そこに、大阪で料理人として修行していた、孫にあたる現店主が独立を決意。集客力の観点から当初は県外での出店も考えましたが、最終的に「祖父が築き上げた、歴史のある場所でスタートさせたい」という想いに至り、既存店舗のリノベーションを選択。そして弊社に依頼いただきました。
物件だけでなく、店名・歴史も受け継ぐ今回のリノベーション。施主の新しい感性や想いを反映させながら「大重亭」という文脈をどう生かすか、これもテーマのひとつでした。
まず、コンセプトは「大人のファミレス」。祖父が残してくれた名物「ステーキ」と、店主が得意とする「洋食」。これらを融合させ、家族連れでの食事や接待まで幅広い客層に利用してもらいたい、というのが店主の想い。また、肩肘張らず気軽に立ち寄れる、トラットリアのような雑多感がありながらも、洗練された料理も出る。そんな「ちょっとかっこいい食堂に」といったワードもいただいていました。
「料理人の仕事は“魅せる=見せる”仕事」という店主のポリシーから、厨房はオープンキッチンにして、カウンター席も設けました。客席は壁側をベンチシートとにし、天井を低くすることで、落ち着いたゾーンに。中央のテーブル席は、自由にレイアウト変更できるため、貸切のパーティーなどでも対応できるつくりにしてあります。
解体時に現れた、コンクリート打ちっぱなしの荒々しい壁は、あえてそのままに。ライティングで際立たせることで、空間に思いがけないテクスチャーを与えてくれています。ランプシェードには、地元高岡の銅器メーカー「FUTAGAMI」を採用。
どこかストイックで、大人っぽい落ち着きがありながらも、決めすぎない。既存の建物の風合いを生かした“つくりこみすぎない設計”を心がけました。
店内中央には、28年前の「大重亭」でも使われていた看板が、誇らしげに掲げられています。かつての文脈を受け継ぎながらも、新しい形態としてアップデートされた「大重亭」。オープン後も地元ファミリー層に愛されていると聞いて、とても嬉しく思います。
(担当:吉川正美)
プロジェクト名:大重亭
用途:飲食店
所在地:富山県高岡市
規模:80.87㎡(当該飲食店舗のみ)、2階一部
完成時期:2015年8月
業務内容:設計および設計監理