banco
進化していくための駆体、引き算のリノベーション。
一口にリノベーションといっても、元の空間に劇的な変化を与えるようにデザインするものもあれば、余計なものをひたすら削ぎ落としていくような、引き算のリノベーションもある。
この建物を拠点とする 御祓川大学は、これからのまちづくりを担う人材を育成する会社であり、オープンなプロセスと開かれた場づくりを目指している。そのため当初から「学生と一緒に企画・設計して欲しい」というのがこのプロジェクトのオーダーだった。
依頼を受けた時点では、元銀行だったことが分からないくらい、壁面も塗装され、看板なども付け加えられていた。まずそれらを剥がし取り、建物の駆体を露にすることから着手した。
今回のプロジェクトに参加してくれたのは、金沢工業大学の有志建築グループ「Toiro」のメンバーだった。彼らが厚い塗装を剥がしていくと、淡いミントグリーンのような、きれいなタイルが現れる。その他にも高い吹き抜けや、おそらく窓口があったであろう小上がりなど、当時の姿が洗い出されてきた。
建物の名前になっている「banco」とは、「銀行=bank」の語源であり、銀行の原型とも言われる北イタリアの両替商が使っていた長机の呼び名だ。学生達との企画会議の中でこの言葉を発見したときには、すでに長机を中心とした現在の空間構想が浮かんでいた。
皆が集まれる象徴的な長机をつくって、その机が屋内だけでなく、街に飛び出していくようなイメージで、屋外軒下にもカウンターを作りつけた。
壁の亀裂や、看板を剥がした跡など、荒々しさをあえて残してあるのは、そこからこの建物が過ごした時間の厚みが見えるように。全て塗り直してしまう事もできたが、それでは「ちょっと懐かしくておしゃれなビル」に終止してしまっていたいたように思う。
そういう意味では、学生が参画していたこと、予算の制限など、様々な条件が影響し合って、このバランスにたどり着けたのだと今振り返って思う。
最小限のリノベーションに留めたこの建物は、御祓川大学がこれから進化していくためのベースキャンプというか、あくまで土台なのだ。これからプロジェクトが成功するたびに、その資金で少しずつ手を加えていっても良い。そうやってバージョンアップしていけばいいし、本来建物とは、そういうものだったはずだ。
今後、この建物がどんな風に変化していき、この場の活動がまちにどんな影響を与えていくか。その変化が楽しみでもある。
(記事担当:小津誠一、設計担当:深尾純平)
プロジェクト名:banco
用途:オフィス
所在地:石川県七尾市
規模:224.5㎡
完成時期:2015年10月
業務内容:企画、設計および設計監理
※企画・設計・施工協力:金沢工業大学 建築系プロジェクトチーム「Toiro」