天野茶店 和美茶美
引き継ぐべきことと、新たな挑戦をデザインする。
金沢の主要な観光地・ひがし茶屋街。そのメイン通りから少し入ったところに「天野茶店」はある。
加賀藩主が金沢城入城の際、先祖が荒子(現在の名古屋市)から移り住み、以来ずっとこの地でお茶の焙煎と販売をしてこられた老舗のお茶専門店だ。
天野茶店のこだわりが一番感じられる商品は「棒ほうじ茶」。金沢では棒ほうじ茶を自店で焙煎しているところは多いが、天野茶店のお茶は特に香ばしく、ほんのり甘く奥深い味わいが特徴。ぜひ一度味わってみて欲しい。
さて、今回いただいた案件は、天野茶店4代目である現店主からの依頼により、お茶の販売スペースと、新たに設ける喫茶スペースのリノベーション相談だった。
天野茶店の店頭では、注文が入るとそのつど茶箱を出し、天秤ばかりでお茶を量って売るという昔ながらのスタイルを踏襲している。
それはお客様との触れ合いを大事にしてきた店の姿勢の現れであると同時に、店の核でもあると思った。
そこで、店頭での店主の動きはそのまま引き継ぎたいと考え、大幅に内装を変えるリニューアルを目指すより、空間を整理し、家具や什器を部分的に新しく作り直すことにより、古い物の中に新しい物を介入させ、空間自体が新しくなったような印象を与えたいと考えた。
さらに、雑多な物や要素を整理し、「納まるべき場所=什器」を用意することで、「茶」と大きく書かれた茶箱や、150年以上も前につくられた信楽焼の茶壷、そして昔ながらの天秤の量りなど、今では懐かしい道具が空間を構成する要素として際立つようになった。また、それらの道具が店主が店頭で量り売りする姿を演出してくれる背景にもなるよう考慮している。
新設した喫茶スペースは、もとは居住スペースとして使用されていた和室の1室を思い切って改修するとあって、販売スペースとは対照的に、大胆に新しい要素を組み込みたいと思った。また、これまでなかった喫茶部門を新しく始めるにあたり、今からどんな風にでも変えていける期待感と、自由にできる余地があった。
そこで、大胆な変化を象徴するように、このスペースには大きなカウンターを入れこむことにした。カウンター越しには、店主が丁寧に加賀棒茶を入れる姿を眺めることができ、芳ばしい香りが広がる中で、訪れた人が茶菓子と一緒にゆったりと一休みできる空間を思い描いた。
また、ひがし茶屋街の雑踏から少し奥まったところにある店舗の立地と、店内に入り奥に進んで行くと広がる、古くからの立派な骨組みが見える吹き抜け空間があるという建物自体のポテンシャルがあったため、それらを生かし、ちょっとした驚きのある隠れ家スポットのようにできたのではないかと思う。
外観に関しては、店の顔となる正面部分の開口部はアルミサッシから木製建具へ、アルミシャッターから木製格子戸へ変更した。その際開口部も大きくし、ガラス越しに見える店内の風景にも考慮した。また庇の瓦も金沢らしい黒瓦へと葺き替えし、外壁もサイディングの上に杉板を張り、凛とした店構えと昔から続くお茶屋らしさを表現するよう心がけた。
天野茶店が大切にしてきた商いへの姿勢や、昔ながらの道具など、引き継ぐべきことは大事に尊重しながらも、新しく挑戦することには大胆に手を加える。そうすることで店の在り方をアップデートし、今後も永く愛されつづけるお店なることを願って設計した。
(担当:田代 彩子)
用途 :物販店、飲食店
所在地 :金沢市野町
構造規模:木造2階建て
対象面積:35㎡
工事種別:リノベーション
完成時期:2017年6月
業務内容:設計・監理
「天野茶店」HP:http://amanochaten.com/