EPICUREAN.
視線が向かう、その先の風景をデザインする。
金沢市の西部緑地公園に近接し、田園風景が広がる稚日野町(わかひのまち)に飲食店を新たに計画するご依頼を受けました。今回この飲食店を設計する上で、「2つの視点」が鍵となりました。
1つ目の視点は「車からの視点」です。計画敷地は片側二車線の幹線道路沿いに位置しており、車に乗る人からどう店を見せるかということについて設計当初から検討しました。多くのロードサイドに建つ店の多くは、大きな看板やサインを高らかに掲げ店の存在を示していますが、連続する銀杏並木や背面に広がる田園帯には相応しくないと考え、店の中で食事や調理がなされている風景がそのままひとつのサインになると考えました。
2つ目の視点は「店内からの視点」です。飲食店における「気持ちの良い空間」の在り方を模索する中で、いつしかpark(公園)というひとつの共通イメージがクライアントとの間にできあがっていきました。敷地の中に植栽による緑化帯を広く設け、この店を訪れた人が公園というイメージの中で気持ち良く飲食をしていただくため、店内にいながらも屋外の空気が感じられればと考えました。
上記2つの視点から、ひとつの答えとしてこの建物の一番の特徴である片流れの屋根にいきつきました。大きく水平に伸びた片流れの屋根は、前面道路および植栽による緑化帯に向かって大きく口を開く形態をしており、それを支えている露わしになった梁桁といった構造は、人を自然と招き入れる、また店内からは自然と緑に視線が向かわせる役割を担っています。
さらに、店内から外の軒先まで同一のしつらいにしたことに加え、面戸(めんど)に当たる箇所をガラスで仕上げにすることで、内外をひとつの軒下空間として捉えられるようにしました。
設計のご依頼をいただいた上昇運輸株式会社では「自然と、なれる」という企業理念を掲げ、多岐にわたる事業を展開しておられ、今回の新店舗もその新たな事業のひとつです。
提供されるフードやスイーツはいずれも無農薬・無化学肥料の食材を使い、本来あるべき“あたり前の食”を提案するとのこと。また、廃棄物運搬を生業としながら、ヴィンテージの照明や家具を扱っておられることからも、物のサイクルを然るべき在り方にしていくといった意志がプロジェクトを通して感じられました。そんな意志に呼応するような建物が設計できたのではないかと思っています。