野町の町家




 

建物の歴史を紡ぐ

本物件「野町町家」は、旧野町小学校(現:金沢未来のまち創造館)のグラウンドに面して建っています。昭和初期に建てられたとされ、金澤町家らしい外観を有する建物であり、コンパクトな金澤町家の賃貸住宅として改修を施す計画となりました。

「野町町家」はもともと、かつての住まい手を失い、弊社の金沢R不動産で新たな家主を募集していた売買物件でもありました。その佇まいは人を惹き付ける魅力があり、募集当初から何件もの問い合わせがありましたが、「前面道路幅員が極端に狭いこと」や「建物の傾斜が激しいこと」、「改修費用がどれくらいかかるのか」という不安要素からなかなか新たな利用者が決まりませんでした。そこで弊社サービス「木造たてもの調査室(通称:木たて調査室)」を活用して、改修提案図や改修見積もりを事前に作成し、購入希望者の知りたいコトを明確にしたところ、現所有者(以降、施主)の事業計画に沿い成約に至るという経緯がありました。

町家を賃貸住宅に改修し事業用物件とすることは、施主にとっても初の試みでした。何よりも町家という歴史的資源を後世に残し活かしていくという未来への想いが強く、設計を行う上では町家本来が持っている価値を見出し、再構築することをコンセプトとすることが求められました。「野町町家」は、延床面積30坪以下と昨今の住宅と比較しても小さく、質素な町家ではあるものの、金澤町家の固有性を有しています。本物の素材と伝統的な工法によって修繕をおこないつつも、部分的に現代の暮らしに適合する形でミニマルに更新し、この町家の歴史の延長上に存在するような空間を創ることができたように思います。

町家本来のオリジナリティを尊重することを目的として、増築部分の減築を施し、かつて有していた隣地との「間」を取り戻すことができたように感じます。施主にも同意いただき、事業物件としては専有面積が減るものの豊かな空間を提供することに繋がったと思います。

本計画が実現した理由のひとつに金沢市の「金澤町家再生活用事業」の補助を受け改修を行なったことが挙げられます。この建物のボトルネックとされた建物の傾斜は、改修以前では被害のある箇所で15cmもの沈み込みをみせ、歩くこともままならないという状況でした。今回、金澤町家再生活用事業によって、基礎の新設、構造躯体の補強を含む改修、修繕工事を実現し、町家を保存し活用へと繋げることができた事例となりました。

既存建物の調査は把握から始まったこの小さな町家再生の取り組みが、野町という古い町の風景を支え、金沢のなにげない歴史的景観を持続していくことへと繋がって行くことを願っています。

(担当:美作大海)

 

用途  :賃貸住宅
所在地 :金沢市野町
構造規模:木造2階建て
延床面積:73.50㎡
工事種別:改修工事
完成時期:2022年2月
業務内容:不動産仲介・設計・監理

※入居者募集中:詳細はこちら(金沢R不動産)から

2022.04.15

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