八百萬本舗
江戸後期の町家をリノベーション、「やおよろず」が集う場に。
藩政期から大店が軒を並べ、明治から昭和の中期にかけて金沢の中心地として賑わった「尾張町」〜「橋場町」エリア。
その歴史的エリアに建つこの町家は、当時から金物屋として商売を続けてきた大きな商家である。長年続けてきた金物屋を閉店するにあたり、この建物を残すべきか、解体すべきかと選択を迫られていた。近隣住民からはこの空間の存続を望む声も多く、僕たちも立地的にも建築的にも特徴あるこの建物を残すべきだと考えた。
しかし、100坪を超える町家では、資本力あるチェーン系の外食産業や首都圏の外資でなければ、この建物を維持できる事業主はいない。
北陸新幹線開通が翌年に控え、観光需要にターゲットを絞る企業からの問合せは多かったが、それではこの町家と地域との関係性は閉じてしまうように思われた。そこで、地元の人たちと観光客の双方に向けて、この町家を開けないかと考えた。
地元の小商いを集め、公民館の様なパブリックな空間も内在させながら、複合的な商業施設としてリノベーションする計画だ。この建物を一括して借り上げて、小さな店主たちにサブリースする事業主、いわゆる現代の“旦那”の協力も得て、八百萬本舗が実現することとなった。
リノベーション設計においては、奥へと拡がっていく町家の空間性を体験できるよう、ガラス面が多く、広い間口を持つファサードをデザインしている。
大きな1階平面では構造補強する壁を店内に散らすように配置しながら、自然と店内を回遊できるよう、6店舗をゆるやかに区画。
螺旋(らせん)階段で繋いだ2階は、地元住民のイベントや会合にも利用できるパブリックな「お座敷」として、金沢らしい和室の設えを残した。
また、建物を横断する金沢城下を取り囲む「惣構堀」の石垣や用水をのぞき見るような仕掛けも施して、店内を巡ることでエリアの歴史にも触れられるようになっている。
この「八百萬本舗」の取り組みが、空間の「伝承」から「継承」へ、つまり「復元保存」から「現在進行形の活用」へと、歴史的建造物活用の新しいモデルとなっていくことを期待したい。
(担当:小津)
金沢の過去と未来をつなぐ町家リノベーション「八百萬本舗」
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八百萬本舗
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