吉祥寺 n/m House

1つの筺のなかで、抽象的な世界感と具象的な世界感を楽しむ家

武蔵野市の閑静な住宅街に建つ夫婦2人の為の木造住宅である。

ご夫婦の要求は明確でありながらも背反するものであり、それらを一つの住宅で実現する形を与えることが求められた。

海外で建築学の修士を修めた施主mさんは、抽象的な空間と更新可能な可変する空間を求めていた。白い無垢の空間に必要最低限の明かりを採り入れる開口部、オフィスの様に機能変更や更新が可能な仕掛け、レイアウト変更に対応しうる可変性といった要素である。

一方、施主nさんは、より具体的な住宅としての快適性や機能性を求めていた。明るいキッチンとバスルーム、隣接する実家と共有する庭への視線や動線を確保する開口、スケールの異なる大小の個室(n専用領域としてのオープンキッチンと書斎)、ユーティリティの利便性などである。

これらの要求を展開する舞台として、居住空間を確保する門型の筺のような空間を確保して、その筐体の中で、インフィルの木質建築nを配置し残余空間mを得たり、異質な半外部空間を挿入しmとnを相対させるなど、大きな空間の中でmとnという対立を共存させ住宅として成立する回答を探し求めることが主題になっていった。

いくつかの案を経て、この筐体の中にE字型断面の木質の一室空間を挿入し、mとnの領域によって、開口部の性質などに変化を与えるというかたちになった。

この空間の中にロ字型フレームの可動家具を配置し、空間を間仕切り、収納されるモノによってスペースの性質が決定されるかたちとなっている。またE字型断面空間には天井照明、ドアノブなどを配置せず床・壁・天井に均質な表情を与え、連続する一室空間を強調し、開口部の位置や可動家具の配置による場の性格づけを強くしている。

この住宅が完成してから、既に15年が経過したが、いまもご夫婦で日々、動く家具を移動させながら、使っていただいている。空だけが見える壁に囲まれた庭と、植栽豊かな隣のnさんの実家の庭を眺めながら、抽象と具象のあいだを行ったり来たり、豊かな暮らしをされている様子をSNSなど見る度、設計者としても嬉しく思う。

(担当:小津誠一)

 

用途:住宅(新築)
構造規模:木造 地上2階
敷地面積:167.96㎡(50.89坪)
延床面積:102.06㎡(30.92坪)
建築面積:66.72㎡(20.21坪)
竣工:2004年12月
住所:東京都武蔵野市
共同設計者:ビーフンデザイン 進藤強

2016.03.29

# WORKS