越中井波 町屋旅館 古香里庵

正面夕景。柔らかな灯りが宿泊者を出迎える

「新旧の対比、調和」フルリノベーションの一部始終をみる。

富山県南砺市(旧井波町)の町家を旅館にフルリノベーションするプロジェクトである。

旧井波町は瑞泉寺門前の古い町並みから木槌の音が響く信仰と木彫りの里と呼ばれている。
通りには現在でも彫刻工房がずらりと並んでいて、今回の町家もこの通りに位置する。

既存の建物は、母屋と蔵を通り庭(敷地奥の庭まで連続する細長い土間空間)でつなぐ町家で、おおよそ築80年の歴史を持つ。

長い時間の中で、構造体には若干の歪みもみられたが、80年以上、この家を支え続けてきた柱・梁、風雪雨をしのいできた屋根、厳しい富山の冬に暖をしのいできた壁等、この建物からは原始的な日本建築の趣が感じられた。
お施主さんは京都に精通している方で、我々と同様、すぐにこの建物の魅力に取り憑かれ、今回の計画がスタートする運びとなった。

日本の建築基準法では、建物を新築・増築する時には各行政機関に申請が必要だが、
これ以外に改修(用途変更が生じ、面積200㎡超)の時にも申請が必要なことは一般の人にはあまり知られていない。

新築・増築に比べて圧倒的に数の少ない改修(用途変更)の申請に取り組むことは、本プロジェクトにおける我々設計事務所の挑戦の一つでもあった。

「建築基準法」「既存建物の長所をできる限り生かす」、片方を積み上げるともう片方が崩れる。この相反する制約と誓約のバランスを保ちながら設計に取り組んだ。
各仕上げ、ディテールは、既存のまま表現できるものには手を加えず、新しい部材を取り入れる場合も、古い部材との対比、調和を意識した。

築80年の歴史を継承しつつ、所々にその記憶を感じ取ることができるよう手を加えることで、新たな要素を構築した新しい町家空間を目指した。

エントランス・受付・食堂

母屋の1階は受付、食堂、客室(1室)、廊下で構成され、宿泊者の共用部が大部分を占める。
共用部では内装色をあえて暗色にトーンダウンさせることで漆黒の引き締まった空間を演出した。
珪藻土の黒壁に赤茶色の既存柱が、木造町家であったことの存在感を残しつつ、アクセントとなっている。

この廊下を奥に進むと、次は真っ白な漆喰塗りの土蔵空間に到着する。

さらにふと視界に入り込んでくる中庭。庭木も以前のものを残し、当時の姿を想起させてくれるようなどこか懐かしいランドスケープを目指した。

母屋から渡り廊下をみる

3つの階段は全て架け替えた

中庭のある客室

土蔵廊下より中庭をみる

正面からの存在感はないが、敷地奥の土蔵は母屋から渡り廊下を介する動線により一体となっている。

躯体の一部が朽ちていたりと状態は決して良いとはいえないものであったが、各所補強を施し、客室(1室)、宿泊者専用のBARラウンジと個室浴場として再生させた。

土蔵

土蔵にある客室、メゾネット形式の開放的な空間

BARラウンジ

宿泊者専用の個室浴場。洗い出し浴槽より坪庭が覗ける。

母屋の2階は全て客室となっており、異なるデザインの4室から構成される。
既存の階段位置を利用し、動線を2部屋ずつ2方向に分けた。
客室の設えは、黒を基調とした共用部とは異なる、開放感のあるシンプルな和の空間を演出した。

形状が全て異なる客室

洗面室

廊下

ライトアップされた幻想的な中庭

サインは地元井波の彫刻家による木彫看板

(担当:南部晋治郎)

プロジェクト名:越中井波 町屋旅館 古香里庵
用途:旅館
所在地:富山県南砺市本町(旧井波町)
構造規模:木造2階建て
延床面積:421.82㎡
完成時期:2020年4月
業務内容:不動産仲介・設計・監理

 

改修前の様子

設計に着手するにあたり母屋はスケルトンの状態にまで解体された。
大空間を構成する大きな梁や柱が魅力的だったが、法規上、覆い隠さざるをえないことに。

解体前の土間

スケルトン後の状態

 

 

2020.05.28

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