現代集落の活動拠点(アジト)を、接続型オフグリットモデルルームへ

限界集落を現代集落へ、現代集落とは

 石川の奥能登、珠洲市真浦地区の集落。ここは縄文時代から里山里海の営みが続けられてきた。しかし「都市への集中」が進む現代ではこの集落も「限界集落」と呼ばれるようになり、人々が繋いできた営みが絶えてしまうことが心配されるようになった。

「限界集落」に100年後に残したい自然共生型生活圏を創造し「現代集落」へと変貌させる実験的プロジェクトが2021年頃から始まった。自然や風土を理解し、積み重ねられてきた歴史や文化・技術といった智慧に学びながら、先端的テクノロジーも駆使し、100年後のあるべき集落の姿をデザインしていくというものである。その未来のビジョンづくりが完成してまもなく、2024年元日の能登半島地震が真浦集落にも災害をもたらすこととなった。

接続型オフグリットモデルルームと真浦復興

 

 震災後、現代集落の取り組みの第1フェーズは、集落内に活動拠点(アジト)をつくり、エネルギーや水を半自給自足する仕組みを導入し提示するモデルルーム(=接続型オフグリットモデルルーム)をつくること。真浦集落内にある空き家となった古民家をリノベーションしモデルルーム化していくことになったのだが、その矢先、2024年9月の奥能登豪雨が起きた。元日の能登半島地震での断水被害からようやく通水予定だったところ断念、電気も復旧不可、道路寸断状態になってしまった。そこで真浦復興コンセプトを提示し、再び孤立することがあっても、数週間は集落の暮らしを維持できるよう、ライフライン”水・電気・熱”の自給可能な接続型のマイクログリッドを実現し美しい景観の中で、再び生業や暮らしを築き、しなやかで弾力ある集落を目指すことを掲げたのだった。

 現代集落は真浦集落住民の他、地域外から色んな分野の方が「現代集落の民」となり、活動が成り立っている。企画(こみんぐる)、エネルギー(近隣住民兼田康彦、シモタニ 竹平政男、イマココ電力)、水(山梨大学、NPO法人地域水道支援センター)、ランドスケープ(アオイランドスケープデザイン合同会社、金沢大学 丸谷准教授)、建築(ENN)、都市計画(東京科学大学 坂村圭准教授)。各分野の専門家が分野を横断し、地域の人とともにモデルルームを完成させる。

浄水装置導入「モバイル濾過装置/山梨大学」、「生物濾過装置/NPO法人地域水道支援センター」

モバイル濾過用貯水タンク(右黒色)、生物濾過用貯水タンク(左クリーム色)、生物濾過装置(奥クリーム色)

モバイル濾過装置

 モバイル濾過装置は女性でも運べる小型で軽量、1日10トンの造水量。自分で交換できるフィルター(中空糸膜)は自動洗浄機能付。紫外線で安全殺菌。真浦集落最上部にある家屋隣接側溝の山水から汲み取り濾過し、将来的には用水路に沿った自然流下による配水システムを構築する予定。黒色のタンクに溜まった水がモバイル濾過装置でつくられたもの。

生物濾過装置、浄化中の様子

 生物濾過装置はアジト横の井戸から水をポンプで汲み上げ、生物濾過装置の中で2回濾過され、丸いタンクに溜まる。濾過装置内の石に微生物が付き水を浄化する自然の仕組み。飲料以外の中水として使える。丸いタンクは1トンの水が貯められ、造水能力は2000L/1日。

電気

太陽光発電、リチウムイオン電池、消費電力可視装置の導入​​「​​​​​​兼田康彦、協力:イマココ電力」「ENN」

太陽光温水器(左)太陽光パネル(右)

 現代集落エネルギーチームと共に、太陽の位置を確認しながら効率的に日光を集められる位置と角度を検討。太陽光パネルの架台は単管パイプで製作。太陽光パネルがポータブル式かつ海外製の物で、通常の留め金具が使えなかった。そのためコの字のアルミチャンネルを架台に取り付けて、太陽光パネルを入れ込み設置した。

 

 電源システムの試作型。太陽光パネルから蓄電池に充電。使用時には手動でモデルルーム内へ給電。震災で急遽、既設の蓄電池と太陽光パネルを流用し、製作。小容量ではあるが、熱源に使わないため運用には問題ない。

系統電源と蓄電池の切替スイッチは色分けしてある

太陽光温水器+灯油ボイラー+薪ストーブ+温水暖房+断熱改修「シモタニ 竹平政男」「ENN」

 給湯は太陽光温水器と灯油ボイラーを使用。暖房は薪ストーブと薪ストーブの熱を利用した温水暖房。熱効率をあげるため、モデルルーム内は断熱改修を実施。

  

 薪ストーブは性能的にもデザイン的にも優れた国産ストーブ 『AGNI-CC』を採用。薪は将来的には里山、山道を整備して自伐採型林業によって自給する予定。薪ストーブの熱を利用した温水システム用の独自改造がバイオマス先進企業の技術により実現された。薪ストーブで温められた温水が、他の部屋へ繋がる配管を通り、温水パネル暖房へと繋がることで暖かくなる。温水システム内の放熱器には能登の付け根に位置する富山県高岡市のアルミ加工技術が採用された。地産エネルギーと地産技術の融合により、快適な温熱空間を提供。

薪ストーブの炉台はモルタルの上に黒塗装、炉壁には珠洲産の珪藻土タイルを施した。珠洲は珪藻土が豊富で、耐火耐熱保温性に優れ、赤茶色の色が特徴だ。珪藻土を施した炉壁、モルタルの炉台も現代集落メンバーと一緒にDIYで行い、ENNが監修も行った。

モデルルームの改修について

 

 和室一間と隣接するダイニングキッチンの二部屋を改修し一間続きのLDK空間とした。以前の空間はリフォームにより古民家らしさが無くなってしまっていたので、室内は薄暗く、墨絵のように濃淡のある古民家らしい空間を取り戻すデザインとした。床は無垢の杉板張り、濃いこげ茶色のオイル塗装、天井も濃い色とした。古民家らしいほの暗さになるよう、照明も煌々と室内全体が明るいのではなく、必要な箇所に必要な分だけの照明とした。照明の電力省エネにも繋がった。省エネの点では暖房効率を上げるため断熱改修も施した。予算と補助金の関係上内装仕上工事は現代集落メンバーでDIYとし、キッチンまでもDIYで作った。これは難易度が高かった。ENNの仕事はDIYで作るための設計図作成のみならず、部材の割り出しから材料買出し、ビスの検討や施工手順の計画など細かなところまで至った。

モデルルームお披露目会

これまでの現代集落の活動をまとめた展示

 モデルルームの完成時には、お披露目会を開きたくさんの方に接続型オフグリットの仕組みを見てもらう機会を設け、これまでの現代集落の活動を伝える展示公開もした。その展示空間の企画・ディレクションもENNで行わせて頂いた。

SATOYAMA GRIDカードゲーム「東京科学大学准教授 坂村 圭・北畠 拓也』

日常生活に必要な消費電力(W)と電力量(Wh)を知るためのカードゲーム。この結果をもとに、各世帯に適した太陽光パネルや蓄電池の大きさを算出することができる。

歳時記 石川・真浦町 ver. β「金沢大学丸谷研究室」

真浦町の自然や文化,年間行事を24節気に分け,地域の人々の暮らしを記録します。人と自然との関わりを継承することを目的としたプロジェクトです。

ランドスケープデザイナー吉田葵による、里山里海の景観を残していくための調査報告書

真浦集落俯瞰模型には現代集落のビジョンが記されている

 

 現代集落フェーズ1(〜2025年3月)接続型オフグリッドモデルルーム完成後の今後は、フェーズ2(〜2026年3月)真浦集落の数世帯で接続型マイクログリッド化を目指し、フェーズ3(〜2027年3月)宿泊施設・飲食店・食品製造など集落内の生業を創出し、関係人口、交流人口など人の流れをうみだすことを目標としている。

(担当:小津誠一・田代彩子)

用途 :モデルルーム
所在地 :石川県珠洲市真浦町
構造規模:木造2階建て
改修面積:34m2
工事種別:リノベーション
設計期間 2024年9月~2025年3月
業務内容:PM・設計・DIY監修

(Photo:亀山文音)

 

モデルルームBefore

 

2025.06.18

# WORKS